「勝者もなく、敗者もなく」


この本は以前、トラバ先のブログで紹介されていたもので、いつか読みたいなと思っていました。
特にトレーダーになった音楽家、田中雅さんのお話です。
確かにチェリストと為替トレーダーを結ぶ接点は普通に考えて思い当たらない、その一般人に理解できない意表性がネタなんでしょうが、この話だけでなく、氏に関するブログなどを読んだところ、接点が見えてきました。
氏はなるべくしてトレーダーになったのだと思います。しかもシステムトレーダーに。彼はもともと音楽より工学の才能に長けていたそうです。そのまま工学の分野に進んでも成功はしていたでしょうが、今のように世間から注目される存在になっていたかどうかはわかりません。
私もそうですが、人生の中で趣味として音楽をたしなむ時期を経験する人はかなりいると思いますが、大学進学時に全く方向転換して音楽家を目指そうという人はほとんどいないでしょう。私はむしろ、ここでの転進に驚きを覚えました。しかも、中途半端でなく、プロの音楽家として名をはせる領域まで到達したというのですから、ある意味天才です。いや、わずかな才能を備えた上での努力の賜物といった方が正しいでしょう。
このように高度に工学と音楽のセンスを身につけた人間であれば、わずかな金融取引の経験がきっかけとなってトレーダーに転進するということは不思議なことではないと思います。まあ、自分もそうなりたいと思っているから勝手にそう決め付けているだけかもしれませんが。
この本の中で印象に残っている言葉は、
「決定的なアイディアは非常にシンプルだけど、誰も考えたことがないものである」
「芸術でも科学でも本当に優れた人はルールからはずれている。ただ、本当にはずれてしまったらダメな人である」
です。確かにその通りだと思うのです。私はコンピュータやプログラムは好きですが、コンピュータミュージックはあまり好きではありません。それは人間の演奏は完璧に楽譜に忠実に行われているわけではなく、音程にしても、リズムにしてもわずかなずれがあるからなのだと思います。そのずれを人間に心地よいものにコントロールできるかどうかがプロとアマとの決定的な違いなのでしょう。
これはシステムトレーディングの世界にも当てはまります。ちょっとした試行錯誤で新しいルールを作ることはできますが、それは本当に相場のツボを押さえた決定的なものではなく、たいていは単なるカーブフィッティングにしかすぎないので、すぐに破綻してしまいます。シンプルだけど誰も考えたことのないルール、しかもそれがわずかなずれを伴って相場と共鳴する。ここまで到達した人がプロのシステムトレーダーとなれるのでしょうね。



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